毎週WEB句会(第1〜60回分)没句集

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はじめに

新家完司著「川柳の理論と実践」に以下の一節があります(抜粋)。

“没になった句を捨ててはいけません。苦労して作った句は子どもと同じです。他人から「ダメ」と言われても簡単に諦めてはいけません。”

川柳の上達には没句の検討が重要です。没句こそ子どものように大切にして、何度も見直す必要があります。
しかしながら、没句は表に出ないため検討が難しいのも事実です。本書は、川柳塔おきなわ準備室で実施している毎週WEB句会において実際に没になった句を公開することにより、どのような句が没になるのかをみなさまにお考えいただく機会となればと企画したものです。
没句の公開については事前に投句者の同意を得ております(投句者名は公開されない)。没句の公開に同意いただいた方々のおかげで成立した企画です。ここに感謝致します。

没句の検討は、本書監修の新家完司氏と毎週WEB句会選者森山文切の対談形式で、実際の没句をみながら行いました。
没句は原因ごとにグループ分けをしました。

リズムが悪い
説 明 的
具体性がない
常 套 句
省略しすぎ

初心者の方向けの内容ですが、経験者の方も日頃の没句を見直す機会としていただけたら幸いです。

平成29年9月22日
森山文切

対談者

新家完司(監修)
川柳塔社理事長
大山滝句座世話人代表
森山文切
川柳塔おきなわ準備室室長
毎週WEB句会選者

リズムが悪い

毎週WEB句会の実際の没句から、どのような句が没になってしまうのか具体的に検討したいと思います。
没句を検討することは川柳の上達には必要なことですからね。
ではまず「リズムが悪い」のグループから。6句です。

毛繕いしながら査定をしています
 

決心が回転ドアから出られない

塩かけて溶かして下さい言葉ごと
繰り返す言葉はゆっくり老いてゆく

待ちぼうけ急行電車で来た意味は

背徳を覚える口づけ今だけは

どの句も五七五から外れていますね。
川柳は韻文です。韻文とは「意識してリズムを持たせた文章」なのでリズムは重要です。
これらの句は散文的になってしまっているということでしょうか?
そうですね。丁寧に述べようとすると散文的になりやすいです。韻文ではリズムを保つためには接続詞や助詞を外すことが多々あります。もちろん外すと意味不明になるものは外せませんが。
ではどのようにリズムを整えていくか1句1句お願いします。
毛繕いしながら査定をしています
中八*で間延びしています。「査定を」の「を」を外すと中七になります。外しても内容も意味も損なわれませんね。
(注) *五七五の最初の五を「上五」、七を「中七」、最後の五を「下五」といい、中七が八音字の状態を「中八」という。
決心が回転ドアから出られない
この句も中八ですね。というか6句全て中八ですか。
中八はリズムを大きく損なうので、接続詞や助詞はよく検討しないといけませんね。この句は「回転ドアを」とすれば、中七になります。
「から」を「を」にしても意味は変わりませんね。
塩かけて溶かして下さい言葉ごと
「下さい」を「ほしい」と言い替えれば中七になります。
繰り返す言葉はゆっくり老いてゆく
「言葉は」の「は」が削除できますね。
待ちぼうけ急行電車で来た意味は
この句の場合「で」を削除すると意味が変わってしまいますね。
そうですね。言葉の順序がちょっと不自然なので、「待ちぼうけ」を下五に置き換える手があります。
背徳を覚える口づけ今だけは
「背徳を覚える」という言葉が硬いので言い替えたほうが良いですね。
     
以上1句1句みてきましたが、リズムを整えるポイントをお教えください。
リズムが悪いことに気が付かなければどうにもならないので、まずはよく音字数を数えること。五七五から外れている場合、最初に接続詞や助詞の削除、置き換えを考える。
接続詞や助詞をさわると意味が変わってしまう場合は順番の入れ替えや言葉の置き換えをするということですね。

説明的

次は「説明的」のグループです。
創作で最も重要なことは独創性(オリジナリティー)です。「説明的」というのは、単に事実を述べただけ、誰もが言っていることなどで、読者に訴える力がありません。
このグループは4句です。
灰汁をぬき栗を味わう渋皮煮

消えるまで世紀を超える核汚染

長男の嫁で気ばかりつかう羽目

あったのね軽自動車のレンタカー

灰汁をぬき栗を味わう渋皮煮
「渋皮煮」というものを説明しただけになってしまっています。
消えるまで世紀を超える核汚染
ニュースで報道されていることをそのまま述べたような句になってしまっていますね。
長男の嫁で気ばかりつかう羽目
「長男の嫁は損」というのは、世間でしばしば言われていることです。
あったのね軽自動車のレンタカー
知っている人も多い事実を改めて述べてもパンチがありません。
  
このような説明的な句を避けるためのポイントは何でしょうか?
「作者独自の想いが入っているか」を意識することが大切ですね。全てを言い尽くしてしまっているような句は、鑑賞の余地がなく感動が生まれません。
答えまで全て示してしまっては、読者が考える、想像することがなくなってしまいますね。
そうです。作者の想いが反映される表現を目指しましょう。

具体性がない

次は「具体性がない」のグループです。具体的なことが述べられておらず、読者がイメージしにくい句をまとめました。
作者にとっては明確に分かっていることでも、それを具体的に述べないと伝わらない場合が多々あります。
このグループは5句です。
言いたいがとても言えない辛いこと

まだ何か目を覚まさないものがある

なぜだろう米軍へ渦巻く不信

他人から見ればゴミだが宝物

隠しても直ぐに本音の顔が出る

言いたいがとても言えない辛いこと
読者には「辛いこと」が何か分かりませんので、もどかしいばかりです。
まだ何か目を覚まさないものがある
全体的に漠然とし過ぎです。
目を覚まさないものが何かのヒントが欲しいですね。
なぜだろう米軍へ渦巻く不信
作者が「なぜだろう」と首を傾げますと、読者はついてゆけません。
他人から見ればゴミだが宝物
他人から見た「ゴミ」がどのようなものか、まったく見えてきません。
隠しても直ぐに本音の顔が出る
具体性がないために、一般論(みんなが言っていること)になっています。
  
これらの句のように具体性がないと読者がいまいちピンときませんね。
極端な表現をすれば、「何にも言ってない」ということです。作者の思いを伝えるには具体性が必要なので、自分の句が「何にも言っていない」という状態になっていないか確認しましょう。

常套句

次は「常套句」のグループ、川柳でしばしば使われる言葉を含む句です。
初心者でしたら、何が常套的な言葉なのか見当がつきません。句会や大会の発表誌を注意して読むようにしていますと、次第に「これはしばしば見る表現だな」と気が付いてきます。
このグループは6句です。
気にするなすまいと思う不整脈

訃報聞く夜の鼓動の不整脈

スニーカー明日の扉を駆け抜ける

ジャンプして孤独な月を抱きしめる

風に乗るチャンスをつかむ鯉のぼり

削除キー押せばぷっつり切れる糸

それぞれ「不整脈」「明日の扉」「孤独な月」「風に乗る」「削除キー」などがしばしば使われている言葉やフレーズで、常套句と言えます。
常套句は使ってはいけないのでしょうか?
常套句が入っていても、作者の想いが伝わる句ももちろんあります。常套句は使ってはいけないというわけではないですが、多くの人が使うということはそれだけ同じような想になりやすく、独自性が薄くなる可能性は高まりますね。

省略しすぎ

最後は「省略しすぎ」のグループです。
最初の「リズムが悪い」の項でリズムを整えるために省くという話をしましたが、省きすぎると伝わりません。
このグループは2句です。
たっぷりと待って三分聞く病

何色の心なのかな棋士14

2句とも言わんとすることは推定できますが・・・。
少し省略しすぎです。
たっぷりと待って三分聞く病
「聞く」の主語は医者でしょうが、医者を省いてしまったために「聞く」の主語が不明瞭になっています。
何色の心なのかな棋士14
「歳」を省いていますが違和感が大きい。歳を入れて字余りになったときは、他の不要な言葉を省いたり上下を入れ替えたりしてリズムを整えます。
  
てにをはは比較的省略しやすいですが、名詞や動詞を省略する場合は「省略しすぎ」という状態になりやすいので注意が必要ですね。

まとめ

5つのグループに分けて実際の没句をみていきました。没句の検討で意識すべきこととは何でしょうか?
時間をかけて執拗というくらい考えぬくことですね。「選者と相性が悪かった」などと没句を簡単に捨ててはいけません。
没句は我が子!没句に愛を!
没句こそ大切にしたいものです。
「没句に愛を」ですね。この企画が読者の方々の愛のきっかけになれば幸いです。ありがとうございました。

「毎週WEB句会(第1〜60回分)没句集」への6件のフィードバック

  1. このごろスランプ(?)なので、気分転換にと完司さんの『川柳の理論と実践』を読んでいたら、中八になる理由として、「川柳が韻文だという意識が薄いために、助詞を適切に省略できないからではないか」というようなことを(記憶だけで書いているので、ずれていたらすみません)書いておられました。この対談でも、同じことを述べていらっしゃいますね。
    「川柳は韻文」、ふだんあまり意識していませんが(ことに川柳は口語なので、俳句に比べ韻文という意識を持ちにくいと思う)、意識することが大切なのですね。

    鈴鹿や亀山の例会に参加していると、「どうしてこの助詞を省略しないかなあ」とか、逆に「どうしてここに助詞を入れないかなあ」と思うことがよくあります。どうも初心の方には、「助詞を省略してよい場合」と「助詞を省略しない方がよい場合」の区別がつきにくいようです。
    私もうまく理論だてて説明できないので、少しもどかしい思いをしています。

    1. コメントありがとうございます。

      日常会話でも助詞がなかったり違っていたりすると通じない場合があるので、「どうしてこの助詞を入れないのか」は川柳をされていない方でも感覚的にわかりやすいと思います。

      逆に助詞を省略した方がいい場合というのは日常会話にはほぼありません。1音字2音字しゃべることが長くなるくらいでグチグチ言うような人は間違いなく嫌われます(笑)

      初心者の方には、「句に含まれる助詞を1つ1つ取ってみる。意味が変わらないものは取る、意味が変わるものは残す。」と説明しています。最初は面倒ですが、そのうちにいちいち1つ1つ考えなくても句を見れば要る、要らないがわかるようになります。

  2. おはようございます!
    昨日、日奈久で山頭火「第3回日奈久de川柳句会」自由律で語り合う句会に参加してきました。秀句2作品と気になる作品2句について選者と会場で意見交換をします。自由律だから余計にリズムが大事だと思いましたし、助詞の使い方について「うるさい」「やぼったい」などの意見があり、大変勉強になりました。

    句を見直すことの大切さですよね、私は没句も再利用します。これは句が足りないからで、どうにか数を合わせるために必死で見直します。すると欠点が見えてくることがありますね。webでのこの企画、とても参考になります。ありがとうございました。

    1. コメントありがとうございました。
      意見交換できる大会はいいですね。いつか参加してみたいです。

      今後も色々な企画を行いたいと思います。お楽しみに!

  3. 新家先生、森山さん
    貴重なご意見、お時間を割いてお聞かせいただきありがとうございます。
    大変楽しく拝読いたしました。森山さんのご足労にあまりコメントがなくても皆様興味深く読んでいらっしゃることと思います。
    お仕事も家庭も超ハードな中、川柳への強い愛を感じる森山さん、いつもすっごいな~~と思いながら見ています。これからも若い力で川柳界を引っ張っていってください。

    1. コメントありがとうございます。
      webは発信のツールと考えています。これからもどんどん発信していきたいと思います。今後もよろしくお願いします。

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